夜ふかしログ

30代サラリーマンが育児・家事・在宅勤務が終わったあと、夜更かしをして読んだ本を紹介したりしなかったりするブログ

被害者の夫の言葉が胸に残る『空飛ぶタイヤ』

被害者の夫の言葉が胸に残る『空飛ぶタイヤ

2018/06/15 公開の映画『空飛ぶタイヤ』を観てきました。

ドラマ『半沢直樹』や『花咲舞が黙っていない』の原作で知られる池井戸 潤さん。
池井戸さんの記念すべき初映画化作品が『空飛ぶタイヤ』です。

三菱ふそうリコール隠しがテーマのこの作品。
情報として比較してしまえば、現実よりもフィクションのほうが救いがあります。

中小企業 VS 財閥系大企業

使用者 VS 製造者とも言える対立構造。
どう考えても勝ち目のない中小企業が、財閥系大企業に戦いを挑みます。

中小企業である街の運送会社が使用するトラックで、走行中にタイヤが外れ、近くを歩いていた女性に激突。
その女性は、亡くなってしまいます。
そして、事故車両を、製造者である大企業が検査。
結果は、使用者である運送会社の整備不良。
その結論に納得のいかない主人公は、大企業相手に戦いを挑むのです。

もし、タイヤが外れたトラックを使用していたのが、日本通運日本郵政ヤマト運輸のような大企業やFedExのような海外企業だったら?
きっと、こんなことにはならなかったんじゃないか。
僕は、そう思いました。

何か事故が起こったとき、専門家が欠陥のチェックをする。
ですが、その専門家は、製造者とも、使用者とも違う、利害関係のない第三者でなければならない。
そう考えています。

製造者は、作り出せるくらいそのことを知っている専門家です。
だからといって、製造者に調査を任せるのは、間違っています。
万が一にでも、その製造物に欠陥があったとき、製造者は馬鹿正直に発表すると思いますか?
普通に考えれば、発表しないですよ。

それと、発言者の言葉を聞いて、それを信じられるかどうかは、発言者のことをどれだけ知っているかに依存するんですよね。
中小企業の人が「整備不良じゃない!」と言っても、有名な大企業が「整備不良だった」と言えば、大企業の言い分を信じる人の多いこと多いこと。

最近の話だと、福島の農産物がこれに近いのかな。
農家さんが「チェックしました。大丈夫です!」といくら言っても、買わない人が続出しましたよね。
「テレビで危険って言ってたから」という理由だけで。
農家さんのことは知らない。
テレビは毎日見てるから知ってる。
だから知ってるほう、つまりはテレビの言い分を信じよう。
人の心理として、そうなっちゃうのもわかります。

もうちょっとフラットに考えて行動できるようにならないとな〜と思いました。

人間らしさ

企業、組織を構成するのは、一人一人の人間です。
寄り集まれば、どんどん顔が見えなくなっていきます。
名前を知っている企業の代表取締役以外の人で、顔がわかる人はいますか?
せいぜい、その企業と取り引きがあって、担当者の顔を知っている、くらいではないでしょうか。

だからこそ劇中、長瀬智也さん演じる赤松社長は、販売会社の担当者から名前を聞いた、ディーン・フジオカさん演じる沢田課長に会おうとします。
ですが、沢田課長は、なかなか会おうとしません。
それは、すでに企業としての結論が出ているからです。
いくら沢田課長に訴えかけられても、結論は覆りません。

ようやく沢田課長と会えた赤松社長ですが、企業としての会話をする沢田課長にこう言います。
「人間らしい会話がしたい」と。

人間らしさって何だろう?
劇中では、人間らしさを定義する場面はありません。

良いことをしたら褒め称え、悪いことをしたらそれを認めて謝罪する。
相手の気持ちになって考え、行動する。

それが、赤松社長の言う人間らしさ、なのかな。

亡くなった被害者家族の思い

浅利陽介さん演じる被害者の夫。
幾度となく謝罪に訪れる赤松社長に言った言葉が胸に残ります。

「ある日、家に帰ったら、家族がいない」

これから先も当たり前に続く。
そう思っていた日常が、あるときぷっつりと途絶えてしまう。
その悲しみは、推し量ることもできません。

僕は、浅利さん演じる被害者の夫に、一番感情移入していました。
ある日突然、妻がいなくなる。
幼い子供と二人、残された者として、どうしていったらいいのだろう。 そして、妻を害した者たちが、責任逃れをしようとしている。
「うちは悪くない。整備不良なんかじゃない」と。
そんなことされて、はいそうですかと納得できるわけがない。

中小企業の社長になることも、大企業の中の人になることも、僕の未来予想の中にはない。
でも、妻がいて、子供がいて、幸せに暮らしてる。
浅利さん演じる被害者の夫、柚木雅史は、僕だ。
現在の僕の延長線の未来には、彼がいる。
いつかの未来、あってほしくない未来の僕が、彼なんだ。

僕だったら、彼みたいなカッコいい態度は取れない。
殴りかかって、ボロクソに言って、泣き崩れるんだろう。
すがって、泣きわめいて、妻を返せと叫ぶんだろう。 なんとなく、そう思う。

感想まとめ

僕は、僕にできることをしよう。
物理的なものを作る仕事じゃないけれど。
加害者にならないため。
被害者にも、被害者の夫にもならないため。
僕ができることを、精一杯やっていこう。

空飛ぶタイヤ』。
この映画を観た今日が、気持ちのいい日であることを忘れないように。