自立起動兵器。
特殊能力。
量産機。
圧倒的劣勢。
ディストピア。
これらの単語に引っかかりを覚えた人には、ぜひ読んでいただきたい作品がある。
『86―エイティシックス―』
なんだ、ライトノベルか。
などと思うなかれ。
大量の無人兵器による人類虐殺が進む、ディストピアの世界で繰り広げられる、架空の兵器同士による壮絶な戦闘。
自分の力ではどうにもならなくなったときに見せる、人の本性。
人間らしくあろうとしながらも、己で己を定義しなければならなかった人たちの歪さ。
SFと人間心理がうまく合わさり、読む者に圧倒的な情報量を叩きつけてくる。
それが、『86―エイティシックス―』。
有人式無人機という意味のわからなさ
世界一の軍事国家である帝国が作りだした無人機だけの軍隊。
レギオン。
そのレギオンに対抗するため、表向きにはサンマグノリア共和国も無人機を作り出し、かろうじて犠牲を出すことなく、脅威を退けていた。
そう、表向きには。
共和国は、実は無人機の開発に失敗していたのだ。
そりゃそうだよね。
AI の開発って難しいよね。
現代でも、将棋や囲碁を指す AI は作られているし、人と勝負して勝つのが当たり前になっている。
だけど、劇中の共和国は、帝国の無人機を見て、慌てて開発し始めたわけだから、どう考えても AI の開発時間も学習時間も足りない。
それに加えて、共和国が世界に誇っていたのは、世界最高の政治形態である共和制を世界最初に導入したこと、という。
僕の印象としては、文系中心の国。
言っちゃなんだけど、そんな国が慌てて開発を始めて、短期間で AI を開発できるわけがないよね。
それで AI の開発に失敗しましたって言っとけばいいのに、共和国はそれを隠蔽。
最悪の暴挙に出る。
第85区の外側にある、第86区。
その第86区を公式には存在しない区とした。
そして、そこに住まう少年少女たちを「エイティシックス」と呼び、有人の無人機の処理装置「プロセッサー」として死地に送り出していたのだ。
85区の中にいる共和国の人間がどうやって「プロセッサー」たちに指示を出していたかというと、超能力でいうテレパシーができる装置は開発できたから、それを使って安全なところから「エイティシックス」たちに指示を出していたのだ。
自分たちの技術力のなさを、移民として移り住んできた人たちの命であがなうとか、最低だね。
国の主兵器が、無人機を謡う有人機、という意味がわからないさにびっくりです。
カッコいいメカのイラストと情報量の多すぎる戦闘シーン
「アルドノア・ゼロ」や「Re:CREATORS」のメカニックデザインを担当されたI-IVさん (@i4longman) がデザインしたメカのカッコいいことといったら!
まるで報告資料から抜き出したようなラフさがカッコよさに拍車をかけるのです。
各メカの全体像が挿絵として載っているので、頭の中でイメージ映像を起こすことが容易。
が、戦闘シーンとなると話が違う。
あまりの情報量の多さに、頭の中のイメージ映像が飛ぶんですよ。
武道の経験も、サバイバルゲームの経験もないので、僕の経験値が低すぎる、というのもあるかもしれない。
さらっと読んでいると、いつの間にか機体が移動している。
戦場は目まぐるしく変わる。
あれ、今ここの描写してなかったっけ?
あれ、こっちの戦闘終わってるわ。
となって、2度3度と戦闘シーンを読み返して、ようやく頭の中のイメージが動くようになりました。
戦闘シーンの情報量が多すぎる!
いろんな経験されている方が読むとそんなことないのかもしれません。
殴り合うようなケンカもしてこなかった僕からすると、アルゴリズムの裏を書くような動きなどもある戦闘シーンは、とても情報量が多いです。
主人公たちのおかれた状況の悲惨さとそれをおくびにも出さない精神性
共和国の85区内に住んでいる人たちから、「エイティシックス」たちは豚と呼ばれて、人権がありません。
いや、まあ、マジでブタはどっちだよって言いたくなるくらいの格差。
それくらい主人公が置かれた状況は惨憺たるものがあります。
そんな状況をおくびにも出さず、「人間らしく」あるために、己で己を定義する。
その部分だけで、置かれている状況が厳しすぎる。
しかも、主人公のコールサインはアンダーテイカー。
葬儀屋ですよ、葬儀屋。
どうしてそのコールサインになったのかは劇中で明かされますが、生き残らないといけない戦場で使うコールサインとしては不吉なもの。
戦争映画とかで兵士たちはゲン担ぎをして、幸運を追い求めてる印象がありますが、「エイティシックス」たちは、特に主人公であるシンは違います。
幸運とかどうでもいい、という雰囲気なのです。
そりゃそうなるよね、と言いたくもなりますが、それもこれもすべからく共和国が悪い。
85区の中で、シンたち「エイティシックス」に指示を出すハンドラーの少女、レーナがもう一人の主人公。
同じ主人公でも、シンとレーナの間の情報格差が半端ない。
シンたちの生活とレーナの生活、両方を読者は見ることができますが、85区内にいるのが本当に幸せなのかがわからなくなってきます。
それだけシンたちが人生を謳歌しようとしている証なんだろうな。
最終的には、シンも、レーナもカッコいいのです。
そして、エピローグがちょっとうるっとくるところもいいですね。
まとめ
自立起動兵器。
特殊能力。
量産機。
圧倒的劣勢。
ディストピア。
これらの単語に引っかかりを覚えた人は、ぜひ読んでみてください。
僕は、まだこれだっていう結論が出せていないけど、あなたなりの「人間らしく」を考えてみてほしい。
- 作者: 安里アサト
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