遺跡発掘師は笑わない ほうらいの海翡翠 西原無量のレリック・ファイル / 桑原 水菜 (著)
ジャンルとしては、歴史ロマンミステリーって呼ばれるものかと。
史実や現存する当時の資料、これまでに発掘された遺物などを組み合わせ、もしかしたら実はこんな歴史だったんじゃないか。
そう思わせられるほど説得力のある考察。
そして、その考察結果とリンクするように解かれていく殺人事件の真相。
ミステリーが書けるだけじゃ足りなくて、歴史にも精通していないと書けないジャンルだと思います。
永倉 萌絵 (ながくら もえ) が勤める亀石発掘派遣事務所、通称カメケンには、絶対的なエースがいる。
その絶対的なエース、西原 無量 (さいばら むりょう) 宛に日本での発掘依頼が舞い込んできたことで物語が始まります。
無量は20代ながら、驚異的な頻度で国宝級の重要遺物を掘り当て、伝説の遺跡発掘師と呼ばれています。
そんな無量に依頼を出したのは、大学の発掘調査チーム。
無量は、大学の発掘調査チームとともに、奈良県にある上秦古墳の発掘を行います。
その遺跡で、無量が掘り当てた「蓬莱の海翡翠」と呼ばれる遺物。
この緑色の宝玉をめぐり、無量を呼び寄せた大学教授が殺されるという事件が起こってしまうのです。
事件の第一発見者となってしまった無量と萌絵。
ここから探偵になっていくのかと思いきや、自分は遺跡発掘師だから故人の意思を継いで発掘を続ける、と無量は上秦古墳の発掘を続けます。
無量が新たに掘り当てた遺物。
さらに、無量と萌絵が所属するカメケンの所長、亀石の調査もあって、殺された大学教授徐々に歴史の考察が進んでいきます。
考察が進むにつれ、明らかになる事実。
そして、歴史の考察と事実が指し示す殺人事件の犯人とは−−−!
読んでいてびっくりしたのは、天皇の出自に関わる歴史を題材にしていることなのです。
第1巻から挑戦的なテーマだな、と。
というのも、天皇に関わる古墳はいくつかありますが、いずれも宮内庁の管轄にあり、発掘調査が認められていないのです。
たしか立ち入りも禁止されているんじゃなかったかな。
なので、ある意味での不可侵領域である天皇の出自に関する歴史の考察を創作されていることに驚くとともに、とてもワクワクしました。
どこまでが事実で、どこからが創作なのか。
読んでいるときの僕には、その境目がまったくわかりませんでした。
読み終わって、創作と思われる固有名詞をいろいろと調べていき、ようやくわかったくらいなのです。
そして、結末に明かされる歴史の考察の説得力は、僕の語彙力では説明することができません。
これだけの説得力を持って話されたら、信じちゃいますね。
これは陰謀論とかにハマっちゃう人の気持ちがわかる気がします。
おわりに
古都、奈良。
今は難しいですが、大手を振って移動できるようになったら、奈良県にある古墳群に行ってみたくなりました。
中学校の修学旅行で訪れたっきりになってしまっているのがとても残念でなりません。
大小さまざまですが、新たに見つかった遺物からの歴史的な新事実というのは毎年のように見つかっている気がします。
自分には授業で習ったところまでの知識しかないことがこれほど悔しいと思ったのは、この『遺跡発掘師は笑わない』を読んだからです。
最近になって出版された歴史書を読んでみようかと思いました。
日本の歴史への興味が湧いてくる、そんな不思議な小説です。