夜ふかしログ

30代サラリーマンが育児・家事・在宅勤務が終わったあと、夜更かしをして読んだ本を紹介したりしなかったりするブログ

竜とそばかすの姫 / 細田 守 (角川文庫)

著者は細田 守さん。
映画『サマーウォーズ』や、映画『未来のミライ』の監督さんです。
この本は、2021年7月16日 (金) に公開される映画に先駆けて、原作小説として発売されました。

高知県の田舎町で、父と二人で暮らす17歳の高校生である鈴 (すず) は、幼い頃に母を亡くしました。
その結果、幼い頃には想像もしていなかったくらい下を向いて生活していました。
ある日、友人に誘われてインターネット上の仮想空間〈U〉に参加します。
〈U〉は、もう一つの現実と呼ばれるくらいのリアリティを持ち、世界中にユーザーがいます。
ベルという名前で『U』に参加した鈴は、その歌で瞬く間に世界中から注目される歌姫になりました。
歌姫として〈U〉の中でライブをしていた鈴は、「竜」と呼ばれ、恐れられている謎の存在と出逢います。
恐れられ、孤独な竜との出逢いをきっかけに、鈴は自分の中にある迷いや弱さと向き合っていきます。

舞台装置としての現実と仮想空間

この物語は、現実と仮想空間とがリンクしながら進んでいきます。
自分でも思ってもみなかった状況に陥っている現実と、多くの人に認められ尊敬を集めている仮想空間。
どんなに仮想空間でのベルが認められていても、現実の鈴の状況は変わりません。
むしろ、危うく最悪の状態になってしまう寸前になってしまいます。
そんな鈴ですが、仮想空間での竜との出逢いがきっかけとなって現実を変えていくのです。

鈴が生きる現実の舞台は、高知県の田舎町。
高知県に行ったことはないですが、なんとなくこんな感じなのかなっていう風景が浮かぶ描写から物語が始まります。
のどかな田舎町の風景にとけ込む沈下橋
沈下橋とは、川の水に流されないよう手すりがない橋のことです。
沈下橋が登場したとき、手すりがない橋か、足元滑らないか心配だな、としか思いませんでした。
高知の田舎はそうなんだ、福島の田舎とは違うんだなって思ったことを覚えています。
ですが、よくよく考えると、沈下橋があるっていうことは、何かあれば川を流れる水の量が膨大に増えるっていうことを意味しているんですよね。
沈下橋が一つの伏線になっています。

そして鈴がベルとなる仮想空間〈U〉。
イヤホンや指輪など身につけるタイプのデバイスから生体情報を読み取り、まるで自分自身が仮想空間の中にいるかのような体験ができることから、もう一つの現実と呼ばれています。
冒頭にある〈U〉を説明するシーンから、『サマーウォーズ』の〈OZ〉を連想しました。
技術が進歩した結果、〈OZ〉は〈U〉に変わったのかな。
サマーウォーズ』を観たことがある人なら、たぶんそう感じると思います。
サマーウォーズ』のときには、仮想空間自体が物語の重要なパーツでしたが、『竜とそばかすの姫』では違いますね。
仮想空間自体の重要度は低め。
人とのコミュニケーションを成立させるツールとして使われています。
とはいえ、仮想空間だからこその設定が物語の重要な要素になっていますので、仮想空間である必要性はあるんです。

おわりに

タイトルに書かれている竜について、内容紹介ではほとんど触れられていません。
なぜ竜は周りから恐れられても行動を貫くのか。
竜を知りたいと願う、そばかすの姫、鈴。
読者にも竜の秘密が明かされないまま、物語は進んでいきます。
鈴と一緒に少しずつ竜の秘密に迫っていきます。
竜と出逢い、その秘密を追いかけていく中で自分自身と向き合い始めた鈴が、竜との交流を経てどうなったのか。
ぜひ、本書を読んで、あなたの目で確かめてください。

そして、歌姫となったベルが歌う歌が、小説の中に登場しています。
歌詞は書いてあるんですけど、メロディーはないんですよね。
小説なので当たり前なのですが。
ですが、本書は映画の原作小説。
映画を観に行けば、小説の中に登場した歌を、メロディーつきで聴くことができるのです。
エキストラシンガーを募集していた理由はこれか!というシーンも原作小説にちゃんとありました。
映画館で、この素晴らしいキャラクターたちが動き、しゃべり、歌う姿をいっしょに観ましょう。