夜ふかしログ

30代サラリーマンが育児・家事・在宅勤務が終わったあと、夜更かしをして読んだ本を紹介したりしなかったりするブログ

私にはこの物語の犯人がわかりませんでした『護られなかった者たちへ』 / 中山 七里 (著)

もし、あなたの知らぬ間に大切な人が護られていなかったとしたら、あなたはどうしますか?

東日本大震災から4年後、仙台市内のとあるアパートの一室で手足と口を拘束され、餓死した遺体が発見されました。
被害者の名前は三雲忠勝 (みくも ただかつ)。
仙台市内の福祉保健事務所で働く職員です。
財布の中の金銭に手をつけられていなかったことから、警察は怨恨の線で捜査を始めます。
しかし、家庭でも職場でも三雲のことを悪く言う者はおらず、むしろ善人と称されるほど。
そのため、捜査は暗礁に乗り上げてしまいます。
犯人の目星すらもついていない中、再び餓死した遺体が発見されます。
遺体の状態は記者クラブにも流していない共通項が多く、十中八九同一人物によるものと判断されました。
二人目の被害者の名前は城之内猛留 (じょうのうち たける)。
現職の宮城県議会議員で、他派閥の議員からも人格者と一目置かれる存在。
捜査本部は善人や人格者が狙われていると考え、前科者や精神科に通院歴があるものが犯人と推測します。
しかし、宮城県警捜査一課所属の苫篠誠一郎 (とましの せいいちろう) は、三雲と城之内には何らかの共通点があるはずだと考え、独自に捜査を行っていきます。
そして、苫篠は被害者二人の共通点を発見するのです。

なぜ、三雲と城之内の二人は、餓死という手段で殺されなければならなかったのか。
本当に護られなかった者とは誰なのか。

あなたに、この物語の犯人がわかりますか?

ストーリーから話はそれますが、本書では、最初の被害者である三雲の勤務先の福祉保険事務所がどんな仕事をしているのか、その一端に触れることができます。
私は知らなかったですし、たぶん多くの読者も知らないことだと思いました。

福祉保険事務所の業務の中には、生活保護の申請の受付と、生活保護受給者の状況確認をするケースワーカー業務があります。
生活保護と聞いて、具体的なイメージが浮かびますか?
私は、収入が途絶えてしまった方を救うセーフティネットということ以外、何も浮かびませんでした。
あとは、テレビのニュースで報じられていた生活保護の不正受給や、生活保護を申請したシングルマザーに福祉保健事務所の職員がセクハラしたといった事件くらいでしょうか。
たぶん、生活保護の申請や受給をしたことのない方は、僕と同じようなイメージだと思います。
そんな私たち読者に対して、現実の生活保護はこれでいいと思うか?という正解がない問題を小説が問いかけてくるのです。
もちろん、小説の中で解決方法は示されていません。
1人で考えても答えが出るとは思えません。
なので、この小説を紹介して、一緒に考える仲間を作りたいと思いました。

それから、この小説を原作とした映画が、2021年10月1日から全国の映画館で公開されます。
舞台は東日本大震災からの10年後の仙台。
ただ、登場人物の名前や立場が一部変わっていますので、もしかしたら小説とは違うストーリーなのかもしれません。
小説との違いを見るため、映画を観に行こうと思っています。

movies.shochiku.co.jp

そして、現実でも、東日本大震災から10年。
まだまだ山積みの問題に目を向け、かすかな声に耳を傾ける。
そのきっかけに、本書を読んだり、映画を観たりしませんか。
そして、みんなで考え、一緒に議論していきましょう。