夜ふかしログ

30代サラリーマンが育児・家事・在宅勤務が終わったあと、夜更かしをして読んだ本を紹介したりしなかったりするブログ

辺境都市の育成者 始まりの雷姫 (七野りく)

ギルドや冒険者、龍など、ファンタジーな単語が盛りだくさん出てくる中、物語は始まります。
プロローグ前半の語り部であるレベッカが物語の中心。
ただ、場面ごとに語り部が変わることもあるので、レベッカの自己意識と、周囲から見えるレベッカのどちらも読者は知ることができます。
なので、第三者視点だと知ることができない人物たちの心情を見せつつ、多角的に人物を見ることができるんですね。
これはうまい書き方だと思いました。

プロローグを現在として、物語自体は2年前にさかのぼります。
過去を語る回想形式なんですね。
回想形式のデメリットは、どんなに手に汗にぎるピンチがあったとしても、何らかの解決はされていることがわかっているということ。
だから、読み始めたときはちょっと失敗したかなって思っていたんですよね。
レベッカを育成していくだけの物語だけかと思ったので、続刊はないのかなって。
個人的に、ある程度の巻数が出るようなシリーズを探していたからなんですけど。
結論から言うと、1巻で終わらず、2021年4月20日に3巻が発売されます。

過程の評価が大事

2年前にさかのぼって第1章が始まります。
プロローグで、元気に第一線で活躍するレベッカの姿が描かれています。
天才とも称される彼女が、2年前はどんな姿だったのか。
2年前のレベッカはプロローグに出てきた姿とは違い、中堅と言われるランクで伸び悩んでいるのです。
伸び悩んでいるレベッカが、どうやって第一線で活躍するようになったのか、という過程が大事な物語です。

レベッカの育成という点で、技術的な何かを教えている場面はそう多くありません。
レベッカが一人で積み上げてきたものがどんなに得がたく素晴らしいものなのか。
そして、才能がありすぎることの弊害や、コツコツと努力し続けたことの片鱗を実体験させる。
ハルという育成者がやったことっていえば、レベッカがやってきたことの成果を気づかせることだけ。
そう言ってしまえが簡単そうに聞こえますが、人の努力を適切に評価するって、難しいことなんですけどね。
すべての努力を目の前でやってくれているわけじゃないし、ましてやその人の中でどんなふうに蓄積されているのかなんて見えないし。
ファンタジーの世界とはいえ、ぜんぶが全部、鑑定すればわかるっていうわけじゃないようです。
だからこそ、それを適切に教えてくれ、自分の成長を体感させてくれるハルに心酔する人が絶えないわけなんですが。

教えられる側から見た規格外の育成者

徐々に明らかになる育成者であるハルの規格外っぷりにも注目です。
ある意味、俺 Tueeee に近いかもしれません。
俺 Tueee と違うのは、むやみやたらと戦闘しないところかな。
なるべく育成していこう、という方針なので、教え子に花を持たせてあげるような準備もしますね。
しかも、教え子だけじゃどうにもならないときにはハル自身が対処する、というフォローもばっちりな育成者。
今回は冒険者の中でも第一線にいる人とのつながりくらいしか出てきませんが、国の重鎮みたいな地位ある人ともつながりがある気配がありますね。
戦闘面だけでなく、製造面にも精通していそうなので、ハルは全方位に強いタイプな感じ。
なので、2巻以降では、戦闘以外の規格外っぷりも見ることができるかもしれません。

戦闘もできて、製造もできて、知識もあって、さらには料理も上手い育成者のハル。
知ってる人は知ってるけど、実在すると思われていない伝説の育成者。
でも本人はそんな自覚ないようにふるまっているんですよね。
基本的に物腰もおだやかで、どっちかといえば学者さんとかみたいな風貌だし。
狙ってやってるようにも見えるけど、どうなんだろう?
ハルが語り部になることはなかったので、これからも教えられる側から見た育成者の規格外っぷりを見ることができるんでしょう。

おわりに

世界観としては、中世ヨーロッパ風ファンタジーっていう感じなので、そういう作品を読んだことがある人ならイメージしやすいと思います。
ありきたりと言えば、ありきたり。
世界観への理解っていうのがない分、人物描写や人の成長というところに重点をおいた作品だと思いました。

一人で行き詰まったなって思ったとき、第三者からのアドバイスで新しい気づきを得られるっていうのは、現代にも通じるものがあります。
ただし、部外者からの言葉って、何も知らないくせにって思っちゃって、なかなか受け入れづらいんですけどね。

状況を変えたいけど、周りの人からのアドバイスを受け入れられないなって思ったときにオススメです。